デザインの勉強を16歳から始め、気がつけばこの道25年以上。 「叩き上げ」のグラフィックデザイナー、北村です。
職業柄、プライベートな旅行中でもついつい「デザイン」に目が止まってしまいます。 特に気になるのが、宿泊先の客室ドア裏にある「避難経路図」。
今回は、先日宿泊した都内・半蔵門エリアにある、長い歴史を持つブランドホテルで見かけた一枚をご紹介します。 素晴らしいデザインだからこそ感じた「品格」と、プロとして見逃せない「課題」。 この2つの視点で解説します。

空間を支配する「マットブラック」の品格
まず、この避難経路図の素晴らしい点は、その圧倒的な「佇まい」です。
多くのビジネスホテルでは、白ベースに事務的なラインで描かれたものが一般的ですが、このホテルではマットな黒(墨色に近い深い黒)をベースカラーに採用しています。 これは、歴史あるホテルの重厚感や、落ち着いたインテリアの雰囲気を壊さないための、極めて洗練された選択です。
また、ドア裏の状況をご覧ください。 通常、ここには「清掃不要(Don’t Disturb)」や「エコ清掃」などのマグネットが貼られています。これらは運営上のツールであり、少し明るい色味やイラストが使われています。
しかし、避難図だけがあえて「黒」で引き締められていることで、「これは他のマグネットとは違う、命に関わる重要情報である」という差別化が、直感的に図られています。 また、黒地に白のラインと文字という「ハイコントラスト」な配色は、火災発生時の煙の中でも情報が浮き上がって見える効果も期待でき、デザインの機能美を感じさせます。

プロとして指摘したい「色」の死角
デザイン性において非常に優れたこの避難図ですが、安全を守るための図面として、一つだけ改善すべき点があります。それは、
「色のユニバーサルデザイン(CUD)」への配慮です。
この図面では、黒い背景の上に「現在位置」や「消火栓」を示すアイコンに「赤」が、避難経路を示すラインに「緑」が使われています。
実は、この「黒背景に赤」や「黒背景に濃い緑」という組み合わせは、色覚多様性(色覚異常)を持つ方々にとっては非常に識別しにくい配色です。特に第1色覚(P型)の方にとって、暗い背景上の赤は黒く沈んで見え、ほとんど認識できなくなる恐れがあります。


公益財団法人 日本眼科学会の資料によると、先天色覚異常の頻度は「日本人男性の約5%、女性の約0.2%」といわれています。(※1)
これは、男性であればクラスに1〜2人はいる計算になり、決して少ない数字ではありません。
宿泊客の5%が、緊急時に現在位置を見失う可能性があるとしたら。 素晴らしいデザインだからこそ、最後の詰めとしての「誰にでも見やすい色選び」が求められます。

まとめ:美しさと安全の両立を目指して
例えば、赤の代わりに明度の高い「朱色」や「オレンジ」を使用したり、色だけでなく形状(白フチをつける等)で意味を補完したりする工夫があれば、この避難図は真の「パーフェクト」なデザインになるはずです。
デザインは、美しさだけでも、機能だけでも成り立ちません。 これからも当ブログでは、「美しく、かつ命を守る」避難経路図のあり方を探求し、発信していきます。
(※1)出典:公益財団法人 日本眼科学会「先天色覚異常」
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HINANZU.comを運営する株式会社キタデザは、「避難経路図は命の地図である」という信念のもと、制作業務を行っています。
今回ご紹介したような「空間の品格」と、多様なゲストの安全を守る「色覚バリアフリー(CUD)」。 これらは決してトレードオフ(二者択一)の関係ではありません。
私たちはプロフェッショナルとして、ホテルのブランドイメージを損なうことなく、かつ誰の目にも確かな導きとなる「美しく、使える」避難経路図をデザインいたします。
新規作成はもちろん、既存図面の「CUD診断」やリデザインも承っております。ぜひお声がけください。
投稿者プロフィール

- 避難図研究所 所長
- グラフィックデザイン好きな40代。趣味は色んな地域へ行くこと。 「機能美は最高の安全性能」という言葉に共感し、特に避難経路図のような「いのちを守るデザイン」に強く魅了されています。
旅先で出会う、その土地ならではの機能的なデザインに触れるのが楽しみ。



